拳友時報445号「シリーズ・宗家に聴く(壱)」~組手には人命尊重の「道」が必要~③
拳友時報445号「シリーズ・宗家に聴く(壱)」~組手には人命尊重の「道」が必要~③
□空手道における理想の組手試合のあり方
記者)次回の東京オリンピックから空手が競技種目になりますが、宗家先生はどのように思われていますか?
宗家)正直どうなるものかと思っています。
特に組手試合においてはどのようなルールが採用されるか、首をかしげながら経緯を見守ることになりそうです。
記者)と申しますと?
宗家)あまりにも両極端な両者が共に試合をすることになるからです。
身体に触れない組手を行う「寸止め組手」派と、方や防具なしで身体に直接打撃を加える「フルコンタクト組手」派。
当てない組手と当てる組手。
どちらのルールでオリンピックは行うことになるのか?
オリンピックはもとより、スポーツの絶対条件は、勝敗の明確さと安全性にあると、錬心舘では創立時から一貫して提唱してきました。
それに伴うなら、直接当てる組手の方が勝敗の明確さに秀でていると言えます。
寸止めでは、見ている観客も一瞬の攻防を見極めることは難しいでしょうし、人は動き回るので、寸止めしたくても相手の勢いで当たってしまうこともあるでしょう。
もしも誤って顔面に拳や蹴りが当たったら、反則負けになるかもしれません。
それだと、わざと反則負けを誘う選手も出てこないとは限らない。
日本人選手が節度をもって試合に臨んでも、他国の選手も同じであるとは限らない。
仮にメダルの獲得のためにはどのような事でも恥としないのであれば、もはや武道とは言えないでしょうね。
記者)直接打撃の方が望ましいという事でしょうか?
宗家)直接打撃であれば良いというものでもありません。
そこにはやはり人命尊重(安全性)が不可欠です。
直接打撃であっても、防具を着用しない直接打撃であれば、怪我人は続出するばかりか、最悪、命を絶つ事態も起こりかねない。
それだけ、空手は危険な武術でもあるのです。
殺傷性という悪に、防具(言い換えるならば人命尊重の「道」)を用いることで、本来の空手道の組手試合が成立すると私は信念をもっております。
またその普及が自分の努めであるとも。
錬心舘開祖(故)保 勇 宗師が高らかに掲げた人間尊重の空手道。
人命尊重の基本理念から、終始一貫、防具付組手試合の正当性を主張してきたのが錬心舘です。
この正当性が、世界中の空手を励む青少年の未来を、空手道の未来を築いていくものと信じ、錬心舘は今後も挑戦し続けます。